フランスワインの歴史
ロワール古城歴史散歩

 

サシェの館・・・バルザックとラブレー

Sache アセ・ル・リドーからアンドル川に沿って少し遡ったところに、小さな城館がある。バルザック(1799~1850)が 『谷間の百合』 『ゴリオ爺さん』 などを執筆した館「サッシェ」である。 現在、バルザック博物館になっている。 三階の天井の低い寝室は彼の生前のままに保存されている。
バルザックの母親の親友ド・マルゴンヌ氏の館であったから、彼はしばしばここに滞在した。

バルザックの代表作 『谷間の百合』 には、
「一つの谷底に、サッシェの館の浪漫的な威容がその全貌を現わしましたが、これこそ調和に満ちたものうげな住居であり、軽薄な人々にとってはあまりに重々しく見えようとも、心病める詩人にとって何ものにも代えがたい住居なのです。それゆえ、その後、私もその館の静寂、梢の裸になった大木、そしてそのひそまり返った谷間にただよう何か神秘めかしいものなどが、すっかり好きになってしまったものでした。」と。

この作品が出版された1836年頃は、田舎から多く人々が、パリに集中して来ていた。 都市化が進み、田園が失われていった時期であるが、眠っていた田園の美しさを、バルザックは呼び覚ましたのである。

様々な人間が様々な心理や行動を展開する「人間喜劇」を描いたトゥール生まれの文豪バルザックがフランス文化の一面を示すと言えば、もう一つの文化を示したロワール生まれの作家として、ラブレー(1483~1553)を忘れるわけにはいかない。

 

Balzac

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ラブレー
ロワールは、風光明媚な景勝地というだけでなく、フランスのガストロノミーの英雄、ガルガンチュワとパンタグリュエルという巨人王たちの生まれ故郷でもある。
物語の舞台の多くは、シノン近郊の村々である。

ギリシアやローマの古典に精通し、医者でもあったシノン生まれのラブレーが、中世の民間伝承に材をとった「パンタグリュエル物語」を出版したのは1532年。 時はまさに宗教戦争の真っ只中、アンボワーズをはじめとして、ロワールの城館や宮廷で血なまぐさい 争いの嵐が吹き荒れていた時代であった。

「火焙りになるのはまっぴらご免」と、時の権力に屈することや、自らの思想に殉じる潔さをも全く持たない精神の産物、ガルガンチュワとパンタグリュエルの巨人父子こそは、あらゆる硬直した狭隘な精神を笑い飛ばし、常にうまい食べ物とうまい酒を愛するゴーロワ精神の体現者なのである。

巨人王子パンタグリュエルが偽善や悪を相手に縦横無尽に活躍するこの物語は、禁書に指定されるが、16世紀最大のベストセラーとなった。

日本では、フランスと言うと洗練されてスマートな文化の国というイメージが一般的だが、猥雑なまでの哄笑と飽くことのない愉しみの追求という「ボン・ヴィヴァン=よく生きる人」の伝統は、フランス文化の確かな一面なのだ。
「よく生きる人」とは、何よりもまず「よく食べよく飲む人」であって、ガストロノミーとは、「よく食べよく飲む」技術以外のなにものでもない。

 

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